
着物・羽織・帯 岩下 江美佳
岩下江美佳さんの染めを見ていると、
いつも不思議に思うことがあります。
染めている色は、本当にさまざまです。
グレー、紫、青、茶、ピンク。
淡い色もあれば、少し深い色もある。
けれど、どの色にもどこか共通する空気があります。
強すぎず、甘すぎず。
やわらかいけれど、ぼやけてはいない。
私はそれを勝手に、
「岩下カラー」と呼びたくなります。
着物と帯、羽織。
すべてを一度に揃えたものではありません。
それぞれ違う時に出会い、
少しずつ手元に加わったものです。
けれど、こうして合わせてみると、
不思議なくらい自然につながります。
色を揃えたわけでも、
最初から一組として考えられたものでもないのに、
どこか同じ空気をまとっている。
同じ人が染めているということは、
こういうことなのかもしれません。
一枚の着物を選び、
何年か経って、今度は帯を選ぶ。
またその先で、羽織に出会う。
その時々に「好き」と思って選んだものが、
少しずつ自分の中でつながっていく。
着物のおしゃれには、
そんな楽しみ方もあると思います。
流行に合わせて一度に完成させるのではなく、
時間をかけながら、自分の好きなものを重ねていく。
そして気がつけば、
その人らしい着物姿ができている。
岩下さんの色には、
そんな時間をつないでくれる魅力があります。
「あいおもい・札幌展」では、
ぜひ一反一反の柄だけではなく、
岩下江美佳さんならではの
色のトーンにも目を向けてみてください。
写真では伝えきれない微妙な色合いを、
実際の染めでご覧いただけたらと思います。
——
▶︎ あいおもい・札幌展|岩下江美佳の染め
2026年9月4日(金)−6日(日)。岩下江美佳さん在展。
▶︎ 岩下江美佳 / artist
岩下江美佳さんの仕事についてご紹介しています。

「日本のおしゃれ 72侯」137ページ
もう10年ほど前に出した『日本のおしゃれ72候』。
もちろん、その中にも岩下江美佳さんが染めた着物が載っています。
岩下さんは東京生まれ。
最初にお逢いした時から、
「雪が好きで好きで」
と、おっしゃっていました。
その思いもあって染めた、雪の結晶の小紋。
本当に人気のあるデザインでした。
でも、型紙には寿命があります。
もう壊れてしまって作れないけれど、
「あと一枚だけなら、何とか補修しながら染められます」
そう岩下さんから聞いた時のお客様の、本当に嬉しそうな顔。
今でも、その時のお客様の表情まで思い出す、私にとっても忘れられない雪の結晶の小紋です。
『日本のおしゃれ72候』では、「熊蟄穴」の頁に、この着物を載せています。
本を開くと、その頃のことまで、いろいろと思い出します。
それから、岩下さんが一年に一度oteshioに来る時は、2月の雪まつりのあと。
雪が大好きな岩下さんには、毎年、北海道の雪を楽しんでもらっていました。
それが10年以上。
でも、2、3年前から、
「もう、ほかの季節の北海道も見てみたい」
と。
そうですよね。
いくら雪が好きでも、10年以上、毎年2月の札幌ばかりでは、ちょっと可哀想なので。
ここ最近は、9月の北海道を楽しんでもらっています。
雪の結晶の小紋から始まった思い出も、気がつけばずいぶん長くなりました。
今年も9月、岩下江美佳さんがoteshioにやって来ます。
「あいおもい・札幌展」。
今年は、秋の北海道と一緒に、岩下さんの染めを楽しんでいただけたらと思っています。

私物の岩下江美佳さんの江戸小紋と帯
現在、江紋屋を主宰する三田村さんと知り合ったのは、今から17、18年ほど前のことです。
その頃、三田村さんから、
これから伝統工芸士になり、「粋凛香」というブランドを展開する女性の染め職人がいる、と聞きました。
その人が、岩下江美佳さんでした。
女性で初めて、東京染小紋の伝統工芸士になる。
そのことに、私はとても感動しました。
着物は女性が身につけるものなのに、
作る人も、語る人も、ずっと男性が多い。
本当に、女性が着たいと思うものを作っているのだろうか。
私は、ずっとそんなことを思っていました。
だから、岩下さんの話を聞いた時、
「これだ」
と思いました。
女性が染める江戸小紋。
女性が身につけた時のことを思いながら、
色を選び、柄を選び、染める。
そこに、これまでとは少し違う江戸小紋が生まれるような気がしました。
あれから17、18年。
今も、岩下江美佳さんの染めを見ると、
あの時の「これだ」という感覚を思い出します。
今回の札幌展でも、
まずは作品をゆっくりご覧ください。
色、柄、そして着物になった時の佇まい。
岩下さんの染めには、
今の女性が着たいと思う江戸小紋があります。
▶︎ 岩下江美佳さんのartistページ



